No.009 フルーツサーヴィング・セット

1851年ロンドンにて万国博覧会が開かれた時、会場に建設されたクリスタルパレス(水晶宮)は近代建築の初期を飾る最も代表的な鉄骨構造の建物です。サイズをお披露目しますと長さ552m、幅122m、ドームの頂上高さが41mで、部材は鉄とガラスで作られ、当時としては常識を破る画期的なものでした。広々とした明るさ、装飾を極力省いた斬新な美しさは当時もきっとピカイチ?だったことでしょう。しかし残念なことに博覧会の後、ロンドン郊外に移転され1936年に焼失しています。模型をご覧になられたい方はV&Aミュージアムに残されていますので参考にご覧下さい。

そこで、どのように「フルーツサーヴィングセット」と関わりがあるかと申しますと、前代未聞のクリスタルパレスの建築により貴族の間では、御邸にも太陽の光を燦燦と射し込むことが出来る小さめ?クリスタルパレスを持ちたい・・・その思いがコンサバトリーの流行となります。現在のイギリスの家屋に設けられているコンサバトリーのサイズをもっともっと広くしたサイズですから、それは温室そのものです。さらにその中で植物を育て、世界各地の植物収集へと関心が持たれます。もちろん植物のみに限らず南国の果物をいつでも口に出来る至福の贅沢を手に入れる訳です。

そして、専用のカトラリーをオーダーされたのが、こちらのフルーツサーヴィングナイフ&フォークと一緒に葡萄の房をプチッともぎ取るグレープシザーズというわけです。当時としては普段は手に入らない南国の果物への憧れは、想像もつかない特別の事であったと思います。その証拠にティーポットのボディ飾りに見られるフルーツをたくさん盛り付けたバスケットがモチーフに使われたりデザート用のカトラリーのナイフブレードに、パイナップルや椰子の木などを丁寧にエングレーヴィングされているものを見かけます。今では年中口に出来るフルーツですが・・・当時は夢のような出来事だったのでしょう。

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