フランス革命がその後の世界に如何なる影響を与えたのか?とは社会的にも政治的にも経済的にも常に問われる歴史のテーマです。過去を遡り検証することは、その時代に生きる者以外には立証することが出来兼ね、あくまでも憶測による解釈となりますし、例えその時代に生きていたとしても、事実を覆い隠そうとする何らかの動きや、動かされる者という立場によっても本来の事実とはかけ離れた・・・しかし現在生きる者にとっては唯一残された史料から推測出来る一断面かもしれません。こちらの200年も以前に作られましたアンティーク銀器が伝える事実も同じようですが、そこに思わぬ真実が秘められているかも…という謎がアンティークとの語らいの魅力の一つです。
さて、こちらのコーヒーポット。フレンチシルバー950銀Paris1809年から1819年に作られたと推測出来る刻印を判読出来たことにより、その時代背景に興味を抱きましたが、目の前に置き眺めていても何を語る訳でもないコーヒーポットです。その上でこの時代とはどのように人々が生きていたものか?どのような暮らし方であったのか?を様々な角度から読み解く事が出来るならば、たったひとつのコーヒーポットであっても実に奥深い物語の一ページを語り始めるような気持ちになります。
この時代に登場する人物、革命期フランスの軍人・政治家、そしてフランス第一帝政の皇帝ナポレオン・ボナパルトがフランス人民の皇帝として1804年12月2日に即位式を執り行ったという歴史的事実を思い出されることでしょう。そこに至るまでの革命期の乱世を想像するならば人も美術品も建築物も惨憺たる状況に陥り、人々が何とか生き抜ける方法を探し求めることに正義を求めた時代です。
その暗黒の時代から人々が安定した生活を求めようとした頃、そしてナポレオンによる第一帝政時代が始まる頃に様式化した帝政様式という古代ギリシャの装飾紋様を好んだ新古典主義の時代思潮はギリシャのみならずエジプトの装飾様式を混合した新古典主義へと結実し、イギリス&フランスともに発展しました。その帝政様式(StyleEmpire)をフランスではアンピール様式、イギリスではリージェンシースタイルと言われた様式です。
注ぎ口にはギリシャ神話に登場するペガサスをモチーフに、脚細工にはエジプト的な装飾紋様から獣脚細工にて仕上げられています。ハンドルの留め金モチーフから蓋の摘みに至るまで堂々たるアンピール様式で仕上げられたコーヒーポット。その100年後〜1900年代の銀器にも同様のデザインモチーフを用いた銀器が数多く見かけられます。その後も様々な様式が生まれていますが、フランスが誇るアンピール様式はフレンチシルバーを飾る代表的なデザイン美の一つです。
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