No.024 海を渡ったジャポニズム

明治維新のほんの少し前、欧米で初めて1851年ロンドン万国博覧会が開催されました。日本も1862年ロンドン万国博覧会に文久遣欧使節団の一行が開会式に参加。江戸幕府&薩摩藩&佐賀藩が参加したのが1867年パリ万国博覧会からです。その頃から欧米各地にジャポニズム様式への関心が高まり、日本独自に極められた蒔絵・螺鈿・象嵌を始めとした漆器装飾や明治の見事な七宝技法、さらに刀剣・装身具・根付等の工芸品から浮世絵はもちろんのこと、友禅や錦織など、その知られざるJAPANの文化が欧米の世界に広まった時期でもあります。

ボックスに納められたデザートカトラリーセット。アイボリーを用いたハンドルにそれぞれ異なる蒔絵を施した シェフィ―ルド1882年John Edward Binghamの見事な装飾。ナイフブレード&フォークの刃先にも両面に一つのテーマを用いながら異なる絵柄&構図で描かれた花鳥風月の華やかななエングレーヴィング彩で飾られたデザートカトラリーセットです。

カトラリーが収められたボックス細工にも日本的な意匠が多々見られ、優美な雅の世界で見事に仕上げています。通常、カトラリーを抑える留め部分にリーフの形をした薄い金具を用いられますが、こちらのボックスには下段に納められますフォークが傷つかぬように、そして枠組みから外れないように左右にスライドする細目の棒状板がセットされています。内蓋部分にもカトラリーを固定させるクッション効果の高い絹地の下には中綿で膨らみを持たせ、草花紋様を描いた絹地装飾にも繊細な心配りが見られます。ちなみに表側のボックスを飾るモチーフにも桔梗を模したモチーフが四隅を飾っています。

ハンドルの装飾には日本の漆芸の技法でもあります色粉蒔絵と箔絵から、花びらや実物から虫や鳥には夜光貝・白蝶貝・黒蝶貝・アワビ等をはめ込み螺鈿装飾が施されています。同じく象嵌細工にてヨーロッパで生まれたトランプ遊びに用いられましたホイストの小爪を飾った芝山象嵌にべっ甲や珊瑚を用いられていますが、こちらのデザートカトラリーのハンドルにも珊瑚を象嵌した芝山象嵌の特徴でもある表面を平らに仕上げず、はめ込まれた細工がレリーフのように立体的な装飾技法が見られます。

シェフィールドを発展させたJohn Edward Bingham。当時の最先端科学技術〜電気メッキの技術を実用化した工房として発展し、その後のシェフィールドの発展を促す多大な尽力を称えられMaster Cutlerに選任。当時の英国の産業革命の中心的な位置を占めていたシェフィールドの市長にも匹敵する名誉でした。しかもフリーメイソンの指導的なポジションでもあった・・・という記録が残されています。その流星の如く輝いたシルバースミスと日本の伝統工芸技術を重ねた結晶とも言えるデザートカトラリーです。

余談ですが明治政府の岩倉具視を始めとした欧米視察団がシェフィルードを訪れ、当時の最先端技術の電気メッキ技術を視察&研修し、その後ロンドンに立ち寄り欧米の法制度〜議会制度から憲法、さらに郵便制度などを学んでいた時期。その時代の大きな渦の中でオーダーされ・・・・海を渡ったジャポニズムとの出会いです。

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